2023年8月24日から始まった“福島第一原発の処理水放出”に反発してきた中国は、日本からの水産物輸入の全面停止しました。
・IAEA(国際原子力機関)が安全だと言っているのに、どうして中国がそんな手段に出たのか?
・中国の原発でも、大量の処理水を放出しているじゃないか!
など様々な意見や見解が出ています。
今回は、そのような見解とは少し違った見方になるかもしれませんが、「中国が水産物を禁輸」したことにより、
・日本の水産物業者にどんな影響が出ているのか?
・我々の生活に何か影響があるのか?
という点について、解説をしていきたいと思います。
日本における水産物輸出の状況
まずは、日本における水産物の輸出状況について解説します。
農林水産省が作成した「2022年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」によると、2022年度における日本の水産物輸出国の中で、中国は世界一の輸出国となっています。
また、世界全体の輸出額が3,873億円であるのに対し、中国へは871億円となっており、日本の水産物輸出額の22.5%を中国が占めている状況です。
「中国が日本の水産物を全面禁輸」は、日本からの輸出先のうち22.5%がなくなってしまうことになるのでその影響が大きいことは理解いただけると思います。
中国への依存度がかなり高かったことがわかります!
影響の大きい水産物
「中国の禁輸」が日本の水産業に大きな影響を与えることを理解していただ上で、続いてどの水産物に大きな影響があるのか、見ていきたいと思います。
農林水産省が作成した「2022年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」によると、2022年における中国へ輸出した上位品目のうち、水産物に絞ると
・ホタテ貝 467億円
・なまこ(調整)79億円
・かつお・まぐろ類 40億円
となっており、圧倒的にホタテ貝の輸出額が大きいことがわかります。
過去10年を振り返ってもほとんど1位ですし、中国への水産物の輸出額(871億円)のうち53.6%と半分以上がホタテ貝となっています。
ということで、ここからは「中国の禁輸政策による日本の水産業への影響」について、「ホタテ貝」に絞ってみていきたいと思います。
ホタテ貝の水揚げ状況
ホタテ貝漁業・養殖業への影響を見ていくため、日本国内におけるホタテ貝の漁獲状況について確認していきたいと思います。
都道府県別の漁獲量
まずは、「国内のどこでホタテ貝の漁が行われているのか?」について確認していきたいと思います。
農林水産省が作成した、「海面漁業生産統計調査」によると、下記の状況になっています。
都道府県 | 漁(100t) | 養殖(100t) | 合計(100t) |
北海道 | 3,396 | 855 | 4251 |
青森 | 4 | 779 | 783 |
宮城 | 0 | 68 | 68 |
岩手 | 0 | 19 | 19 |
合計 | 3400 | 1721 | 5121 |
ここに出てこない都道府県は、まったく水揚げされていない状況です。
見ていただくと一目瞭然ですが、ホタテ貝の水揚げは日本の中でも北海道と東北の一部のみがすべてとなっています。
また、その中でも北海道は日本全体の約80%と圧倒的な水揚げ量を誇っています。
ホタテ貝は暑さに弱く、冷たい水の環境を好むため日本の中でも北部に集中しているようです。
これらの資料から「中国による水産物禁輸」が北海道の水産業者に大きな影響が出ているということがわかりました。
水産業者や日本政府の対応
このような状況になり、ホタテ貝を水揚げする水産業者や日本政府が黙って見守っているわけにはいきません。
中国が禁輸したことに対してどのような対応・対策を行っているのか見ていきたいと思います。
水産業者の対応
水産業者としてまず考える対応としては、他の輸出国を探すことだと思います。
しかしながら、ほたて貝については日本の輸出量の60%が中国であったため、それだけの量を受け入れられる国を探すというのは、かなり困難と考えられます。
とすると、国内での流通を増やすことが考えられますが、そもそもの話として、国産の水産物は日本国内での流通を優先している状況であるため、需要が急に増えることはありません。
需要を増やすために、国内で安く流通させる案もあるかもしれませんが、それでは水産業者の収益が減ってしまいます。
なかなか、いい手段が見つかっていないようです。
水産業者としては「自分たちの努力だけではどうすることもできない」というのが正直なところのようです。
日本政府の対応
水産業者が苦しい状況にある、となると日本政府の積極的な対応が求められます。
当然日本政府も敏感な対応を行っています。
政府の支持率低下という状況を打開するためにもしっかり対応する必要があると考えていると思います。
今のところ、政府の対応は以下の通りです。
・そもそもの要因である「原発の処理水放出」について、科学的根拠をもって水産物に問題がないことを訴えていく
・中国に対して、科学的根拠などを軸にした説明や働きかけを行っていく
・ホタテ貝の新たな輸出先の開拓を主体的に行う
水産業者から見て、おそらく満足のいく対策とは思えませんが、対中国に対してはこの問題以外にもいろいろな問題があるので苦しいところなんだと思います。
今後の動向(予想)
ここまで、現時点(2023年9月)における状況について説明しました。
それでは今後、どんな展開が待ち受けているのでしょう。
あくまで予想となりますが、今後の展開の予想をしていきたい思います。
中国国内での混乱
「水産物の禁輸」と聞くと、中国国内の市場から魚介類が不足するのでは?というイメージを持つ方も多いと思いますが、実際に大きな影響が出るのはホタテ貝だけであることがわかりました。
中国で日本のホタテ貝が人気であることは有名ですが、大きな混乱は発生しないと考えます。
また、中国国内で流通するホタテ貝の価格が上昇することは間違いないと思いますが、そんな状況でも買える人・買いたい人が購入するという動きになる程度だと思われます。
ホタテ貝が”冷たい海を好む”ということを考えると、もしかすると仲の良いのロシアあたりからの輸入量を増やす、という可能性もあります。
日本国内での価格低下
日本国内で余剰となる可能性の出てくるホタテ貝は、廃棄するくらいであれば国内で積極的な流通が始まることも考えられます。
ふるさと納税でも、ほたて貝は人気の高い返戻品なので品目が増えるかもしれませんし、水産業者を少しでも助けるという意味で、我々も意識して積極的に利用した方がいいかもしれません。
また、ここ数年で価格がどんどん上がっているお寿司屋さんのほたての価格も下がってくるかもしれません。
そういえば、以前は一皿100円だったのでよく食べてましたが、高くなってからはほとんど食べなくなりました。。。
国内でのホタテの価格が下がると、水産業者の収入・収益も減るのでは?ということが懸念されますが、そこを助けるのは政府の役割だと考えます。
間違いなく、“補助金”などの介入を行い水産業者を助ける動きになると思います。
他の漁業への拡大
水産業者も、いつまで続くかわからないこの状況の中、何も手を打たないわけにはいきません。
対策としては、
・中国以外の国が、ほたて貝を輸入したいと思うようなアピール・宣伝を行う
・ほたて貝漁を縮小し、他の水産物漁を強化する
などが考えられます。
ただ、これらの対策には水産業者の力だけでは困難であり、政府の助けが間違いなく必要となります。
早いタイミングでの政府の介入が期待されるところです。
さいごに
今回は、中国による日本の水産物禁輸について、その原因や影響について説明しました。
この禁輸がいつまで続くのかも含め、今後の展開はなかなか予測できない点もありますが、ポイントは「政府がどれくらい介入・支援するのか」にあると思われます。
・水産業者に対する資金面
・余剰となる可能性のあるほたて貝の活用方法
・中国に対する禁輸措置の停止交渉
・新たな水産物輸出国の開拓
など、政府が介入すべき点はたくさん考えられますし、すでに動き始めています。
政府の支持率が下がっているからかもしれませんが、動きが速いですね。。
今後の動向に注視していきたいと思います!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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